三鷹市男女平等参画条例の報告書

まちづくり研究所第3分科会報告書 2005年4月21日更新

三鷹市まちづくり研究所第3分科会
~「三鷹市男女平等参画条例(仮称)の検討」に関する報告書~

I 提言にあたって

 「男女共同参画社会基本法」が平成11年6月に成立し、男女共同参画社会の実
現が、「二十一世紀の最重要課題」と位置づけられた。男女共同参画社会の実現
を目指して、計画の策定が義務づけられた都道府県をはじめ、市町村においても、
地域の特徴を反映した男女平等に関する計画策定や条例制定を進める自治体が増
えてきている。三鷹市においては、第3次基本計画の主要事業に「男女平等参画
条例(仮称)」の制定を掲げ、積極的な取り組みを明らかにしている。
男女平等に関する異なる考え方が存在するのも事実であるが、多くの課題がある
ことを前提にしつつも、今こそ真摯な議論を重ねる中で、真の男女平等参画社会
を目指していく努力を続けなければならない。私たちは、常に前向きに議論を重
ねたいと願い、多くの意見を交わしてきた。
この提言をぜひ参考にしていただき、また、三鷹市がこれまで取り組んできた、
「男女平等行動計画」や「女性憲章」などの先進的取り組みもベースとし、三鷹
らしい「男女平等参画条例(仮称)」の制定を進めることを切にねがうものであ
る。


II まちづくり研究所第3分科会設置の経緯

 三鷹市は、女性問題の解決のため、早くから女性施策に取り組んできた。昭和
60年に婦人行動計画検討市民会議を立ち上げ、「三鷹市婦人行動計画」を策定し
たのを皮切りに、その行動計画をわかりやすく表現するためのものとして、全国
に先駆けて昭和63年「三鷹市女性憲章」を定めて、男女平等社会の実現に努めて
きた。
さらに平成4年10月に「三鷹市女性行動計画」、ついで、平成13年に策定した
「三鷹市基本構想」「第3次三鷹市基本計画」に盛り込まれた施策を具体的に展
開していくために、新たに「三鷹市男女平等行動計画」を策定した。 男女平等
参画条例は、この「三鷹市男女平等行動計画」に制定を予定したもので、施策の
実効性を高め、三鷹市と市民、事業者が一体となって、男女平等社会の実現に取
り組むために制定されるものである。
 平成16年2月に、三鷹市まちづくり研究所に「三鷹市男女平等参画条例(仮称)
の検討」を研究課題として第3分科会が設置され、学識研究員3名、公募を含め
た市民研究員7名を構成メンバーとして研究が始められた。第3分科会では、こ
れまで8回の分科会を開催し、10カ月にわたり男女平等参画条例(仮称)に盛り
込むべき内容について、集中的に検討を重ねてきたものである。

※ 提言の内容の表記について
 IVで記載する男女平等参画条例(仮称)の内容については、想定する条例の項
目建てに
そって、項目ごとに本分科会の意見を集約した。しかし、ひとつの検討項目に関
する異なった見解が研究員から出され、最後まで見解が分かれた場合は、それを
本報告に掲載することにより、今後の議論がより多様で豊かなものになることを
期待している。
 具体的に IVの表記としては、枠内の内容は概ね了解を得られたものを記して
おり、見解が分かれたものは欄外に「その他の意見」として付記している。

III 名称について
○ 名称を「男女平等参画条例」とする。
 男女平等の実現をめざすとともに、あらゆる分野での女性と男性の共同参画を
実現していくことを表わす名称とする。


IV 「男女平等参画条例」に盛り込むべき内容について

1 前文 
○ 国内外の経緯と、全国に先駆けて制定した「女性憲章」についてふれながら、
三鷹市の経緯を述べること。
○ 三鷹市の現状として、これまでの取り組みにかかわらず、性別に起因する人
権侵害、固定的な役割分担意識、それに基づく社会的慣行の横行などが存在する
ことを記載し、差別があることは社会全体にとって不幸なことであり、これをな
くしていくために、条例が必要であることを表現する。
○ 少子高齢社会の到来、情報化・国際化の進展、社会の急速な変化という環境
に対応していくために、男女の固定的な意識の変容を図ることが緊要である。
○ 男女の違いに着目することではなく、社会的地位や職業選択に代表される社
会的な役割分担が平等でなくてはならないことを述べる。
○ 三鷹市の未来へのビジョンである、「日本国憲法における基本的人権の尊重
を基調とした、人権の尊重、世界に開かれた平和・人権のまちづくり」を基礎と
する。
○ 三鷹市の目指すものは、「男女が互いにその人権を尊重しつつ、責任をわか
ちあい、性別にかかわりなく固定的な性別役割分担意識を変えていき、その個性
と能力を十分に発揮することのできる男女平等参画社会」を実現することである。
○ 一人一人が「個」として尊重される、誰からも強制されない、そして自由な
生き方を選択できることで、一人一人が生きる喜びを実感し、安心して生活でき
るようなまちづくりが大事である。

(その他の意見)
暮らしやすいまちであるためには、社会の基盤となる家庭を基本にするべきであ
る。男性と女性の違いをお互いに認めつつ、助けあいながら生きていく社会がめ
ざすべき社会である。
前文は総論的であって、基本的な表現にとどめてよい。


2 目的
○ 「男女平等参画社会を実現する」ことを目的とする。

(その他の意見)
「三鷹市女性憲章」をふまえて条例を設置する、と記載する。
「男女共同参画社会を実現する」ことを目的とする。


3 定義
○ この項目における協働の主体については市と市民、個人、事業者、団体等と
する。


4 基本理念
○ 「自立した個人として尊重され、男女が社会をつくる対等のパートナーとし
て社会のあらゆる分野に参加し、個性と能力を十分に発揮できる男女平等社会の
実現」を記載する。
○  「能力を発揮する」という視点を盛り込む。
○ 三鷹でこれまでに積み上げてきたものとして「人権の尊重」「自治の実現」
「市民、事業者、NPO等との協働」について記載する。
○ 男女共同参画社会基本法をもとに、「性別によって、定型化された役割に基
づく偏見及び慣習を排除する」ことを具体的にうたう。
○ 市における政策または事業者及びその他の団体において、決定の前に平等な
参画が確保されること、男女が等しく政治的、経済的、社会的及び文化的利益を
享受できる、ということを記載する。
○ 直接差別または間接差別を禁止するという記述が必要である。
○ 国際条約(女子差別撤廃条約)の趣旨に沿って男女平等社会を実現すること
を入れる。

(その他の意見)
「自立した個人」ではなく、自立という言葉の入らない単なる「個人」でよい。

「男女の特性と能力を発揮する機会が確保されること」を記載する。
差別についての関心が高まってきたとはいえ、間接差別は現状ではまだ理解され
ていない。差別という言葉で、間接差別も十分網羅される。
国際条約はいろいろあるので、「国際協調」という理念的なものを入れればよい。
「女性差別撤廃条約」という具体的な条約は入れなくともよい。


5 市の責務
○ 市の責務の中心は、計画の策定と実施である。
○ 市は基本理念にもとづいて、男女平等社会を目指すための施策を策定し、実
施する責務を持つ。その際には、市民や事業者と「協働」して行う。
○ 市の義務として、「しなければならない」という表現をとる。

(その他の意見)
市は、思想・良心・表現の自由などの基本的人権を侵害してはならない。


6 市民の責務について
○ 市民に義務付けをするのは難しい。努力義務のような規定を設ける。
○ 市の責務との違いがあっていい。
○ 市民が、市の施策に協力するように努める。


7 事業者等の責務について
○ 市と市民以外のNGO,NPOを含めた全ての団体に対して、何らかの努力義務を
定める。
○ 事業者とその他の団体と義務の中身について差を設ける。
○ 一定の事業者に対しては、アンケートという形を含めて、男女平等に関する
報告を提出するよう努めなければならないことを規定する。


(その他の意見)
事業者にとって逆差別にならないよう配慮してほしい。
男女平等の理念が常識となるような職場の意識を向上させるための義務を何か設
定できないか。営利活動の事業者に関しては、雇用形態など男女平等に関する報
告の義務付けをしてほしい。
積極的格差是正措置については、さらなる議論が必要である。

 
8 市、市民、事業者及び団体等の協働
○ 三鷹市の特色として、市、市民、事業者及び団体等は、協働して男女平等施
策を推進することを規定すべきである。


9 性別による権利侵害の禁止事項
○ 性別を理由とする差別的取り扱いの禁止を規定する。
○ セクシャル・ハラスメントの禁止を規定する。
○ ストーカー行為の禁止を規定する。
○ ドメスティック・バイオレンスの禁止を規定する。
○ ドメスティック・バイオレンスは、夫婦間及び全ての男女間における暴力の
禁止、という表現にする。


10 公衆に表示する情報に関する努力義務
○ 何人も、公衆に表示する情報において、異性に対する暴力等を助長し、また
は連想させる過剰な表現を使わないように努める。


11 基本的施策
(1) 人権尊重の視点に立った男女平等意識の醸成
○ 男女平等社会を作るためには、性別役割分業意識を変えていく必要がある。
それは、内心の自由を侵すものではなく、その意識を解消することで、すべての
人が自由に選択できる大前提を備えることになる。
○ メディア・リテラシーとして、情報の受け手、特に子どもにメディアを読み
解く能力を育てることが必要である。

(その他の意見)
内心と表現の自由とに抵触する恐れがある場合は、性別役割分業意識の解消は記
述すべきではない。
納得して分業しあうことはよいが、性別役割分業の押し付けは良くない。


(2) 人権としての性の尊重
○ 自分自身を大切にし、心身両面から総合的に自己決定できる能力を身につけ
ることは、女性が自己を守る場合に特に威力を発揮する重要な能力である。
○ 自分の思想信条と同じく、自分の体と性を知ることは、一人の人間として生
きていくことの大前提である。

(その他の意見)
性を人権としてとらえることは、コンセンサスが未だなく、問題がある。
ここでは「性的自己決定能力」を入れるべきではない。


(3) 女性に対するあらゆる暴力の根絶
○ DV、セクシャル・ハラスメント及びストーカー行為は男女双方に関わる人権
侵害である。そうした行為を許さない風土作りをめざし、暴力の根絶を図る。
○ これらの暴力の被害者救済の支援策を充実する。


(4) 政策形成過程への女性の参画推進
○ 男女の意見が等しく政策形成過程に生かされるように配慮するしくみとして、
積極的格差是正措置の導入を図ること。

(その他の意見)
積極的格差是正措置については議論が必要であり、現時点での導入には反対であ
る。


(5) 地域活動への男女平等参画推進
○ 男女が等しく地域活動を担い、方針決定の場に参画していくことができるよ
うな配慮をし、様々な地域活動における男女平等参画の促進につとめる。


(6) 家庭生活における男女平等の推進
○ 家庭生活における男女平等の推進には、男女双方の性別役割分業意識の改革
が必要である。
○ 家庭をつくる男女が協力し、家族が個人を尊重し合い、お互いに助け合う家
庭と、それを支える社会づくりが必要である。

(その他の意見)
家庭は、社会の基本的単位としてその役割は重要である。
家庭生活における「性別役割分業意識の払拭」を省くべきだ。
また、非行や少年犯罪が多発する現在、「家族の絆」が希薄になっている。男女
共同参画社会は、実質的に家族の絆を強めることをめざしている。よって、家庭
生活において家族の絆と家庭教育について十分配慮する、という項目も必要であ
る。
子どもの非行は各家庭で様々な事情がある。男女平等社会の側面から考えるなら
ば、家族の絆という言葉を入れることは固定観念の決めつけになりやすいので、
この場合はあてはまらないと考える。
市の基本計画、行動計画でも個人の尊重が基礎となっており、その上で、家族や
社会が成り立っている。個人の人権を尊重することと、自己中心とは異なる。


(7)国際交流・平和活動における男女平等の視点導入
○ 女性の「開発への参画」と「開発からの受益」という視点を踏まえた事業を
実施していく。


(8) 就業機会の拡充
○ 多様な女性の就労環境の中で、女性の就業機会が拡充されるよう支援する必
要がある。
○ 就業の厳しいひとり親家庭の就業支援をおこなうべきである。


(9) 市の率先行動
○ 市自体が積極的に男女平等社会の実現に向けた取り組みを実施し、社会への
波及効果をねらう。


(10) 新しい働き方の支援
○ (SOHO、事業型NPOやコミュニティビジネスなど)新しい働き方に呼応し、
能力や技能を身に付けるための支援を展開する。


(11) 職業生活と家庭生活の両立支援
○ 女性も男性も家庭と仕事をバランスよく両立できるような環境整備と支援策
を実施する。


(12) 性と生殖に関する健康・権利の確立
○ 性の自己決定能力を育成するという視点を盛り込む。
性に対して、女性が自分のからだのことは自分で判断できることが大前提であり、
自分自身を大切にすることで、他人も大切にすることが理解できる。

(その他の意見)
「性と生殖に関する健康・権利」を女性の重要な人権の一つとして尊重すること
には反対する。中絶を含めた自己決定能力については、母体保護法と刑法(堕胎
罪)に違反し、胎児の生命尊重からも認められない。


(13) 母性の保護と母子保健の充実
○ 女性が生涯を通じて健康に過ごすことができるよう、母子保健・医療サービ
スを充実させる。


(14)子育て支援の充実
○ 子どもと家庭の問題を社会の問題として捉え、子育てをしている家庭を支援
するため、多様な保育サービスの提供、子育て相談事業の拡充、子育て支援施設
の充実やひとり親家庭の支援など子育て支援施策を充実させる。

(その他の意見)
在宅での育児家庭、専業主婦を専ら対象にした支援を盛り込みたい。


(15)介護保険制度の充実
○ 介護の社会化をすすめるため、介護保険制度の充実に努める。

      

(16)高齢者・障がい者・ひとり親家庭の自立支援
○ 高齢者・障がい者・ひとり親家庭の自立にむけた支援を行う。


12 女性の活動拠点となる施設の充実
○ 女性の社会参画、社会活動の支援を重点的に行い、男女平等参画を進めるた
めの機能として、専門職員の配置など拠点施設の整備が必要である。

(その他の意見)
現在の「三鷹市女性交流室」を前提とせず、広さも機能も充実した拠点施設を作
り、女性・男性ともに多くの人が利用できる拠点とする。


13 推進体制の整備
○ 三鷹市の実態を把握し、推進状況を評価して市民に知らせる一方で、専門家
の意見を聞く、この両方を兼ね備える常設の機関=審議会が必要である。
また、年月の経過で起こる条例とのズレや、問題の変化などに対応していくため
に、継続して審議を行っていく必要がある。
○ メンバーは、学識経験者と、市民公募も含めること。
○ 審議内容は、市長の諮問、さらに自らの発議により調査・立案を行うことが
できるようにする。

(その他の意見)
審議会は市長の下にあるものではなく、独立して意見を言えるものであるべきだ。
三鷹市の市民との協働という観点から、審議会は市長と対等な立場をもち、協力
していくようにしたい。
メンバー構成や運営方法によっては、審議会が市民の信頼に応えるものになるか
どうか不安がある。


14 苦情等の処理
○ 総合オンブズマンとは別に、男女平等問題などの専門性を持つ苦情処理機関
が必要である。
○ 男女平等に関する苦情・悩みに対し、解決の方法を探り、専門機関への橋渡
し役、区分けをするような機能が必要である。
○ 苦情処理機関は、市長から独立し、専門性を持つ複数の委員で構成し、公正
な判断を行うこととする。

(その他の意見)
苦情処理機関は、不平等な決定が行われる場合のデメリットを考えると、持つべ
きではないと考える。
苦情処理機関の決定により生じると考えられるデメリットよりも、大勢の人々の
苦情が解決されないデメリットのほうが大きい。


15 推進状況の点検
○ 市自らが、進捗状況を定期的に点検した上で公表すること。


16 全般について
○ 条文作成においては、市民に意味が伝わりやすく、わかりやすい文章表現を
とること。できるだけ、小学校高学年から中学生が理解できる内容とすること。



V おわりに~
  私たちは、三鷹市における男女平等参画がより一層推進されることをめざし、
研究を行ってきた。これまで三鷹市は、全国的にも先んじた「三鷹市婦人行動計
画」、「三鷹市女性憲章」などに取り組んできた。市民意識調査から、三鷹市民
の男女平等意識はかなり浸透しているものの、実際は平等とは言い切れない状況
が読み取れる。固定的性別役割分担意識や慣行などの現状を変えていくためには、
市がその責務を果たしていくためにも、男女平等参画条例という推進力が必要で
あるといえる。
 市民の一人一人が「個」として尊重され、誰からも強制されない、そして自由
な生き方を選択できることで、一人一人が生きる喜びを実感し、安心して生活で
きるようなまちづくり――をめざすために、実効性ある男女平等参画条例をつく
っていただくことを願うものである。


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